傷跡だけではなかった街

前回に続き、石川県・輪島市の訪問記をお届けします。前回は街に残る震災の爪痕をお伝えしましたが、輪島で目にしたのは、決して傷跡だけではありませんでした。むしろ、そこかしこで復興が着実に、確かに前進している──その力強さこそが、今回いちばんお伝えしたいことです。

動き出す復興の現場

市内を歩くと、崩れた道路では重機が稼働し、瓦礫が片付けられ、新たな区画が少しずつ整えられていました。被災家屋の解体現場では、土を掘り返し、石材やコンクリートを丁寧に分別する作業が淡々と続けられている。仮設の店舗や住宅も整備され、人々の生活が一歩ずつ日常を取り戻そうとしている様子が伝わってきます。

「がんばろう輪島!」の貼り紙

ある電柱には、「がんばろう輪島! 漆は世界一」と書かれた貼り紙がありました。被災されたご本人たちが、なお前を向き、自分たちの誇りを高らかに掲げている。その姿に、訪れたこちらのほうが励まされ、胸が熱くなりました。

心を打たれた輪島塗

そして今回、何より心を打たれたのが輪島塗です。漆黒と朱の地に、金で繊細な蒔絵が描かれた吸物椀。展示されていた品は、五客揃いで数十万円から、なかには百万円に迫るものもありました。決して安くはありません。けれど一つひとつを手に取って眺めれば、その価格に込められた意味がわかります。木地づくりから下地、塗り、加飾まで、百を超える工程を、幾人もの職人が何ヶ月もかけて仕上げる。気の遠くなるような手間と技術の結晶が、あの深い艶に宿っているのです。

文化を絶やさないという意志

輪島塗の職人さんたちは、地震で工房を壊され、長年使い込んだ道具や材料を失った方も少なくないと聞きます。それでも再び筆をとり、漆と向き合っている。「この文化を、絶対に絶やさない」という静かで強い意志を、作品そのものから感じ取ることができました。

訪れることも、支える力になる

被災地の復興を支える方法は、義援金や寄付だけではありません。実際に現地を訪れ、地のものを食べ、土地の産品を買い、見聞きしたことを誰かに伝える。そうした一人ひとりの小さな行動の積み重ねもまた、確かに地域を支える力になります。

おわりに

能登は、本当に良い場所でした。穏やかな海、美しい里山、温かい人々、そして手仕事の器。その魅力は、震災を経てもまったく失われていません。むしろ、逆境のなかで前を向く人々の姿が、この土地の本当の強さを物語っているように思えました。皆さんもいつか、ぜひ能登・輪島へ足を運んでみてください。